お気に入りの書籍紹介『メディア論―人間の拡張の諸相』

こんにちは、Gaji-Labo 山岸です。Gaji-Labo Advent Calendar 2014 24日目のエントリです。

残すところあと2日となったアドベントカレンダー。実は今回他の本を取り上げようかなと思っていたのですが、昨日の『書物の歴史』の後に続くのはこれしかないだろう! という本がありましたので、そちらを紹介することにしました。

それが『メディア論―人間の拡張の諸相』です。

書籍写真
章ごとのサブタイトルがちょっとかっこいい

現代文明と新しい人間環境へのスリリングな予言

本書は1987年に翻訳されたのだそうですが、原書は1964年に書かれたものです。ですから古い本であるということを前提に読まなければなりませんが、それを感じさせない凄さがこの本にはあります。

この点で、人類は数世紀にわたって典型的で全面的な失敗をしてきた。メディアの衝撃を無自覚のまま従順に受けてきたために、いまやメディアはそれを使う人間にとって壁のない牢獄となっている。

著者のマクルーハンは文明批評家で、メディアに関する理論で知られています。メディア研究をする方の間では知らない人はいないであろうというくらい、重要な理論を残した人です。マクルーハンの洞察はひとつひとつがとても鋭く、それが本書を「現代文明と新しい人間環境へのスリリングな予言」と言わしめています。

この本の魅力を表現するには、全文引用しても足りないくらいです。はーとにかく読んでほしい。面白いから。本当に。

繰り返す歴史は先人から学べる

現代に生きている私たちは、私たちの問題は私たちだけの特殊で新しい問題だと思いがちなのですが、実はそうでないこともたくさんあります。本書からは、そういったことを学ぶこともできるはずです。

たとえば、印刷というメディアが書かれたことばを量産するようになり、

同じようにして、中世の職人組合と家族組織の非均質性と非競合的な不連続性は、印刷によって情報の加速が生じ、さらに機能を細分し画一にする必要が生じてくるにつれて、大きな厄介の種になっていた。ベンベヌート・チェリーニのような、鍛冶屋、画家、彫刻家、作家、傭兵隊長のすべてを兼ねるような人物はすたれてしまった。

のようなことが起こったとあります。これに似たことが、今のウェブやITの世界にもある気がするのです。

まだまだ牧歌的だった90年代前半には個人の力で完結できていたウェブデザインが、生産性向上のために専門性を振り分けた分業制を取った結果、ロールとしてやるべきことが画一になりました。しかし、今度はロール間でのやり取りに課題が生じたり、幻のフルスタックが求められてみたり、ロール間で役割を押し付けあってみたり…などなど、他の問題が生じたりもしていますね。

これをいきなり引き起こされた混乱と見るか、繰り返す波の再来と見るかによって、受け止める心持ちや構えが違ってくるのではないでしょうか。

エネルギーと生産は、いまや情報や学習と融合する傾向にある。商品の出荷と消費は、知識の学習、啓発、摂取と一つになりつつある。こういったことすべては、何世紀にもわたる外爆発と高じていく専門分化主義のあとに続く、あるいは、あとを継ぐ電気的内爆発の現われにほかならない。

私たちが歴史の辿ったパターンのどのあたりにいるのか、どこからが新しい状況でどこまでをパターンとして見ることができるのか。そのような視点の助けになってくれる本書の考察は、自分の立ち位置を俯瞰することに役立つと思います。

オートメーション、生き方と学習

今現在の私が一番興味深く読めるのは、「オートメーション 生き方と学習」の章です。まさに今自分が取り組んでいる課題や問題意識にぴったりと当てはまる内容だからです。

オートメーションは情報であり、それによって仕事の世界から職務が消えるだけでなく、学習の世界からも科目が消える。しかし、オートメーションも、学習の世界そのものをなくしてしまうわけではない。将来は、オートメーション時代における生き方の学習が、人びとの仕事の内容になるであろう。これは電気による技術全般に見られるパターンである。

パターンとしてはっきり示されているものは、もはや疑う余地もないものです。けれど人びとは、そんな波をいくつも越えて現在までやってきた。その時に何が起こっていたのかを紐解くことは、少なからずこれから前に進むための助けになってくれます。

現在のように断片化して、相互に関連をもたないパターンのまま継続すれば、われわれの学校のカリキュラムは、自分たちが生きているサイバーネーションの世界を理解することのできない市民層を確実につくり出すことになるであろう。

私がワークショップや社内外の人材育成について深く考えるようになったのも、ここで述べられているようなことを強い危機感として抱くようになったからでした。その感覚が間違っていないということを、本書が裏付けてくれるのが心強い。そういった意味でも、無視できない本なのです。

メディアに関わる人だけでなく、すべての人におすすめしたい

私たちのようにウェブやメディアに関わる仕事をしている人の中には、この本をすでに読んでいる人が大勢いることと思います。けれど、そうでない人にもおすすめできる内容です。

すべてのメディアが人間の感覚の拡張であるが、同時に、それは個人のエネルギーに課せられた「基本料金」でもある。

メディアの影響や恩恵を受ける側としても、私たちは何らかの「基本料金」を支払っているのだとすれば(もちろんお金のことではありません)、それを知るべきだなと思うのです。そのことを意識せずにいると、メディアという牢獄の中で、いつのまにか消耗してしまうのかもしれませんね。

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投稿者 山岸 ひとみ

主にサービスデザイン案件や新規事業・スタートアップ案件を担当し、サービスデザイナー/プロセスファシリテーターとしてビジネスとデザインが密接な領域で活動。柔軟なプロセス設計を持ち味にして、チームの成果と成長に貢献しています。社内ではメンバーが健康に働ける環境の整備やひとりひとりの成長のためのしくみづくりなどを担当。おいしいコーヒーを買ってくる担当もやってます☕